ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった

渡辺温

ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった書籍情報

底本:「アンドロギュノスの裔」薔薇十字社
   1970(昭和45)年9月1日初版発行
初出:「講談雑誌」
   1929(昭和4)年4月
入力:森下祐行
校正:もりみつじゅんじ

ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった 2

渡辺温

 それでも、遉にコーカサス生れの故か、髪も眼も真黒で却々眉目秀麗(ハンサム)な男だったので、貧乏なのにも拘らず、居留地女の間では、格別可愛がられているらしい。
 ――アレキサンダー君は、露西亜語の他に、拙い日本語と、同じ位拙い英語とを喋ることが出来る。
 桜木町の駅に降りたのが、かれこれ九時時分だったので、私達は、先ず暗い波止場の方を廻って、山下町の支那街へ行った。
 そして、誰でも知っているインタアナショナル酒場(バア)でビールを飲んだ。ここの家はどう云う理由か、エビス・ビールを看板にしているが、私はずっと前に、矢張りその界隈にあるハムブルグ酒場で、大変美味しいピルゼンのビールを飲んだことがあった。