渡辺温
底本:「アンドロギュノスの裔」薔薇十字社
1970(昭和45)年9月1日初版発行
初出:「講談雑誌」
1929(昭和4)年4月
入力:森下祐行
校正:もりみつじゅんじ
渡辺温
『マルウシャ! 日本人の小説を書く人に惚れています。――マルウシャ、云いなさい!』
その少女の噂は、私も既に聞いていた。彼女は私に、××氏から貰ったのだと云う手巾(ハンカチ)を見せたりした。
それから彼女は、アレキサンダー君と組んで踊った。ストーヴの傍にいた家族の者らしい老夫婦が、ヴァイオリンと竪琴(ハープ)とで[#「竪琴とで」は底本では「堅琴とで」]それに和した。私はエビス・ビールが我慢出来なかったので、酒台のところに立って火酒(ウォトカ)を飲んだ。
若い時分には、可なりの美人だったらしい面影を留めている女主人が、酒をつぎ乍ら私の話相手になってくれた。